第2話

 

 今日も茜はサンドバッグに向ってパンチを打つ。ボクシングジムの練習の中でもサンドバッグ打ちは特に気に入っていた。プロレスの練習は体を丈夫にするために筋トレが主だった為に、耐え忍ぶことが要求されていた。もちろん、ボクシングの練習も耐えることが求められるが、ストレスを発散させることもできる。サンドバッグ打ちがまさにそれだった。

 それに先輩たちのしごきもない。プロレスに比べるとだいぶ楽に感じられた。

 ボクシングジムに入門し、3ヶ月が経過していた。すでにプロライセンスは取得しておりあとは、デビューを待つ段階まできている。

 新女再興への冗談のような話は、着実に現実へと向っている。

しかし、デビューが近づくに連れて、どうにかしなけれならない問題が出来ていた。会長に自分がファントムキャットだと信じてもらえていないことだ。入門初日に言ったら、冗談にとられてしまいまともに相手にされなかった。練習に入っても良い体してるねぇと言われるだけで、ファントムキャットだと信じこませる説得力を見せ付けるには到底無理であった。どんなに頑張っても、所詮はデビュー前の練習生に過ぎなかったのだ。

 「茜、会長が会長室まで呼んでるぞ」

「あっはい」

 トレーナーに声をかけられ、茜は会長室に向う。机に座ってる会長と顔を合わせると、途端に会長は顔を崩した。

「いやぁ、悪かったな。まさか、本当に、ファントムキャットだったとはなぁ」

「 えっ・・」

 突然だったので間の抜けた声が漏れてしまった。

 「新女の人が昨日の夜ジムを訪れてきたんだよ。松浪社長の息子さんだ。そうしたら、茜がファントムキャットだからよろしくお願いしますと言うじゃないか。びっくりしたぞ御前の正体が本当にファントムキャットだったなんて」

 「いやぁ・・」

 と茜は後頭部をさする。あれほど苦労したのに幸一の一言だけで信じてもらえるなんて、複雑な心境だった。

 「体も怪我明けでまだ本調子じゃないらしいな。それが早く分かってたら、デビュー戦までもっと時間をあけてたのになぁ。まぁ、きまったもんはしゃあないな」

 「えっデビュー戦が決まったんですか」

 「ああ、相手は女子アマチュアボクシング大会優勝者だ。承諾すべきか迷ってたんだが、松浪さんが太鼓判を押してくれたから承諾することにしたよ。強敵だが、茜はファントムキャットなんだ。敵わない相手じゃないだろう。それにまだ2ヶ月もあるんだ。体調もまだまだ戻ってくるだろ」

「えっええ・・」

茜は引き攣った笑みを見せるしかなかった。

会長室を後にすると、携帯を手に取り、一直線にジムを出た。

「ちょっと、どうなってんのよぉ!」

「どうかしたの?」

携帯電話からは幸一の能天気な声が届いた。

「なんで太鼓判押すのよ。相手アマチュアボクシング大会優勝者なのよ!」

「あああれね、ファントムキャットの女子ボクシングデビュー戦には相応しい相手は彼女しかいないと思って女子ボクシング協会に直談判してきたんだよ」

「何考えてるのよ。あたし、まだ3ヶ月しか練習してないんだよ。敵うわけないじゃない」

「大丈夫、プロレスラーは最強なんだ」

「ぜんぜん、大丈夫じゃないわよぉっ!!」

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