ブレザーdeBOXしかも夏服派

     櫻井涼       赤井理奈                     

                   櫻井涼                                   赤井理奈

 

 「まったくあんたってとんでもないよね」
 部活を終え、更衣室で着替えていると隣から優子が言った。
 「ん?何が?」
  Tシャツを脱ぎ終え、顔を見せた涼は言った。
 「紅白戦とはいえ、チームの得点8割を一人で取るかね」
 「あ〜あれね、しょうがないじゃん。周りが役に立たないんだから」
 「また敵を増やすようなこと言うんだから」
 今、更衣室には優子と涼以外に誰もいない。とはいえ、学校とは何処からか噂が漏れるものである。そのことを分かっていながら涼は気にもせずに大胆な言葉をぶちまける。
 「それでもかまないんだけどね〜」
 「まぁ涼が絶好調なら来週の紅高との試合は勝てそうかな」
 「何言ってんのよ優子、絶対勝つんだよ」
 「それにしても今日のギャラリーの数凄かったね。10人以上いたじゃん。やっぱ紅白戦となると大勢来るね。「櫻井さ〜ん」ってさ、皆さん応援に熱心だったね〜」
 優子はにやにや笑いを浮かべている。
 「勘弁してよね」
 うなだれた。
 「こりゃ今年のバレンタインも期待出来そうだね、この幸せもんが」
 「人事だと思って。去年あたしがどれだけ憂鬱な思いをしたか。机の中にチョコがあるってだけならまだ良いよ。でも、直接手渡しで、告白はどうにかして欲しいよ。去年バレンタインの日に何人に告白されたと思う。3人だよ、3人。どうなってんだよこの学校は。あたしはああいった輩が大嫌いなんだ」
 溜め息を吐いた。亜流仁高校は男女共学であるが、去年まで女子高だった。そのため、女生徒の数が圧倒的に多く、また、女子高ならではの忌むべき風習も数多く残っている。その一つが同性への憧れである。表立って存在はしてないが、同性カップルが何組かいるんじゃないかとの噂も当然のごとくある。
 そして、亜流仁高校女生徒のアイドル的存在にさせられているのが櫻井涼であった。ボーイッシュな外見にスポーツ万能であり二年生でありながらバスケット部のエース。同性から憧れを受ける全ての要素が揃っている。去年のバレンタインでは22個のチョコをもらい、校内記録を塗り替えている。
 「だったら男と付き合えばいいじゃん。そうそう、そうしなよ」
 「ろくな男いないじゃん。この学校って」
 「じゃぁさ、涼の好みって何?」
 「強い男かな。あたしより軟弱なのだけはダメだよ」
 「へぇ〜」

 
 今日の部活は3ON3のミニゲームだった。涼はドリブルで相手をかわし、次々とゴールを決めていく。
 休んでいると
 「すごいわね櫻井さん」
 若林奈々が話しかけてきた。たいして仲が良いというわけではないが、試合の時は一番頼りにしている。巧みなパスワークには涼も信頼を寄せていた。
 「そう?」
 「ねぇ彼氏募集してるってホント?」
 「はぁ〜!」
 涼は大声を出した。
 「あれっ違うの?櫻井さんが『自分より強ければ付き合いたいな』って言ってる話聞いたんだけど」
 「ちょっ・ちょっと待ってよ。何でそんな話が・・」
 「学校中の噂になってるよ」
 涼は優子に顔を向けた。優子も涼の険しい視線に気付き、引き攣った表情に変った。
 「優子〜!」
 涼が優子の元へ迫る。
 「ごめん、ちょっと口が滑っちゃって」
 「どうすんのよ、彼氏募集なんて恥ずかしくて校内歩けないじゃない」
 「まぁまぁ。逆にさこういう噂が流れた方がさ、おっかけの数も減ると思うし、バレンタインの日だってチョコの数減るって」
 「ん〜そりゃそうかもしれないけど」
 「それにバレンタインの日に男のこから告白受けるかもしれないじゃない。アメリカじゃ男がチョコ与えることもあるんだしさ、バレンタインの日に楽しみが出来たようなものじゃない、ねっ」
 「男からだって断る方は辛いんだぞ」
 「中には埋もれてた逸材がいるかもしれないよ」
 「は〜頭痛くなってきた」
 

 2月14日。
教室へ到着し、机の中を探る。9個。去年に比べれば少ない。やはり噂が効いているようだ。
 昼休み。
この時点でチョコの数は12個に増えた。男子からの告白はゼロ、女子からの告白もゼロ。ただし、手渡ししてきて妖しげな感情を持ち合わせているように見えた娘二名。
 放課後。
 チョコの数は13個。男子からの告白はゼロ、女子からの告白もゼロ。告白となるとやはり放課後だろう。部活が始まることあり、これからが本当に憂鬱な時となっていく。告白が来るとしたら部活前か、部活後に集中するはずだ。
 更衣室へ向っていく途中で優子に出会った。
 「涼、調子はどう?順調にもらってる?」
 「洒落になってないって」
 「男の方はどうなの、涼に告白してみた度胸のある者はいた?」
 「それはゼロ」
 「男は皆年下だからびびってんのかな。年下の可愛い男のこが「櫻井さん、付き合ってください」って言うシーンみてみたいのになぁ」
 「もう、いい加減に・」
 「櫻井さん」
 声は後ろからだった。しかも、可愛らしい女のこの声だ。振り向くと背が低く、ちょっぴりぽっちゃりとした女のこが純情そうに顔を赤らめている。涼はやれやれといった表情をした。
 「こ・これ・・受け取ってください」
 両手で差し出してきた四角の箱はチョコを入れるにしては大きすぎる。一体何が入ってるんだろう。もしかしてチョコケーキ?
 涼は無言で受け取った。
 「中開けてください」
 大人しそうな外見に反して大胆だなぁ。怖いもの見たさに近い気がしながら涼子は箱を開けた。
 赤いボクシンググローブが入っている。涼は目が点になった。
 「えっ?これっどういうこと?」
 「あ・あたし・・櫻井さんのこと・す・好きなんです。あたしと・・ボクシングで勝負してください」
 「は〜。ちょっと待ってよ。好きだからって何であんたとボクシングしなきゃいけないの?」
 「櫻井さん・強い人と付き合いたいって・・・。だ・だからあたし・櫻井さんより強いところ見せます。だから・試合に勝ったら付き合ってください」
 涼は片目を瞑り、顔を斜め下に向けた。
 「よしっ試合決定」
 と言ったのは横から出てきた優子である。
 「ちょっ・何勝手に決めてんのよ」
 優子が涼の耳元で囁いた。
 「あんたの追っかけの一人をボクシングで痛い目に会わせれば追っかけの数もきっと減るよ。それって涼の願ったりじゃないの。それに追っかけにうっぷんが溜まってるんでしょ。その溜まったものを一度くらいぶつけといた方が良いんじゃない?」
 たしかに追っかけ連中を相手するのにはもう疲れ果てた。殴るとはいかないまでもがつんと言ってみるくらいしたいと思ったことは何度もある。優子の言う通りかもしれないと思った。ここは夢見る少女に辛い現実を分からせてやろうじゃない。



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